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KUTANism 2021|九谷焼の芸術祭クタニズム2021
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#09 流通を担い作り手を支え、産地を守り続けてきた問屋 KUTANism全体監修・秋元雄史が自ら現場に足を運び、ナビゲーターと対談をするなかで九谷焼を再発見していく連載シリーズ「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。ここまで作家や職人たちの技や技の受け継がれ方に注目してきましたが、第8話と9話では「産業と九谷」をテーマに、産業の面から九谷焼を支えている企業を訪れます。今回伺ったのは、大正時代に創業し長年九谷焼を支えてきた老舗問屋「伊野正峰」と、インターネットを駆使して現代の卸業を営む「北野陶寿堂」です。

時代の流れ共に変わる問屋のあり方や流通の仕組みについて、主に戦前から戦後を「伊野正峰」に、昭和後期から令和にかけてを「北野陶寿堂」にお聞きしました。産地を代表する問屋2社へのインタビューを通じて、九谷焼業界の変遷や流通の変化をたどります。

情報発信に力を入れ、海外との取引も増加

秋元:
現在の営業スタイルはどのようにしていらっしゃるのでしょうか。
北野:
担ぎ売りの時代から、平成に入り足で稼ぐようなこともなくなって、展示会が主流の時代へと変わりました。陶器業界だけの見本市もあればオールジャンルのギフトショーもあり様々で、小売業者や百貨店のバイヤーなどが対象です。
秋元:
展示会がメインの営業ツールになるのはいつ頃がピークだったのですか?
北野:
私が12年前に東京から戻ってきたときは、まだ展示会が主流でした。私も展示会に行ったり、担ぎ売りという言葉も聞いていたので、飛び込み営業をしてみたりとかして。一方で大変非効率なことも分かってきて、私の代で営業の手法を見直そうと思い、一気に変えることにしました。私自身としては、平成後期から令和の営業は、売ることよりも情報発信がカギになると思っています。今は自社の情報をいかに整理してお客さんに伝えられるかということだけを考えて、営業しています。私は2009年1月にここへ帰ってきたのですが、当時はリーマンショックの直後で、業界も本当にどん底の不景気だったんですね。
秋元:
やっぱり、リーマンショックが一番大変でしたか。
北野:
きつかったみたいです。九谷焼全体の生産額はリーマンショックの後までずっと下がり続けていて、最盛期の5分の1にまで減っていました。私が家に戻ってきたときも「こんな業界によくきたね」とか「こんな業界でやっていても将来がないよ」とか、ネガティブな話しかされなくて笑。でも自分は良かった時代を知らないので、耳に栓をして、ここがスタートだと思い、問屋のあり方自体を見直すことから始めました。
北野:
現場を経験して、問屋業ってかなり薄利多売の苦しい状況でやっているなあと思いましたね。このまま衰退の流れに乗っていったら、うちの商売は終わってしまうなと。そこでまずは卸事業以外に別の柱を立てなくてはということで小売事業に着手し、2009年からオンラインショップを始めました。そこで気付いたことが、卸売部門でもネットショップにあるような商品の情報が一覧で見られるような仕組みが必要だということです。それからインターネット上に当社の全商品を掲載して、カタログのようなオンラインショップを作りました。こうすることにより、自社オンラインショップを使って取引先に売れ筋商品をご案内したり商品を確認したりできるようになり、販売に活用できるようになりました。同時にインターネット上で卸販売ができる環境も整えました。こうしてネットと情報発信に取り組んだ結果、これまで陶器業界からの引き合いしかなかったのですが、ヘアサロンやアパレルショップ、インテリアショップなど様々な業態から「商品を仕入れたい」とお問い合わせをいただくようになったんです。
秋元:
それはすごいなあ。海外への営業はどのような方法を取っているのでしょうか。
北野:
インターネットを使っての情報発信とカタログ配布になります。これまでカタログは冊子しかなかったのですが、どんどんデータ化すると同時に英語翻訳もして、海外のバイヤーにはカタログデータを送っています。小売の方は日本と同様、海外でもネットショップが爆発的に飛躍しました。現在、海外での九谷焼のメインマーケットはアメリカと中国なのですが、コロナ禍が始まったころより、さらに世界中で売り上げが伸びている状況です。

海外輸出用の段ボール箱も自前で揃える。

秋元:
ネットで販売する際に、価格帯やラインナップなど気をつけていることはあるのでしょうか。
北野:
オンラインショップはモールごとに顧客の購買層が異なるのが特徴です。楽天はギフト需要が多いとか、アマゾンだったら自宅用が多いとか。そういった特徴に合わせて、サービスを展開するようにしています。
秋元:
モールによって相当違うのですね。北野さんが家業を継ぐ際に「次はネットだ」と思ったきっかけは何だったのでしょうか。
北野:
私は前職が広告営業でIT業界を担当していたので、ネット需要が伸びていることは以前から知っていたんです。それで、家業を継いだらすぐに使いたいなと思っていて。
秋元:
事業をネットに切り替えていくことに対して、お父さんから反対はありませんでしたか?
北野:
反対されたことは一度もないですね。父は私がすることに関してすごく寛容というか、信頼をしてくれていて。失敗しても「何事も経験だから、どんどん挑戦してほしい」という考え方だったんです。
秋元:
それはすごいなあ。私は日本の事業構造が変わらない原因として、世代交代が上手くいっていないというのが一番大きな課題だと思っています。地場産業は中小企業が多く、親から子へ受け継がれていくなかで、親子の確執がありなかなか上手に世代交代ができないところがありますよね。北野さんの場合は、とてもスムーズに代替わりをされたのですね。
北野:
ありがとうございます。父は父なりに色々と努力をしてきたのですが、後半は少し売り上げを落としてきていたというのもありまして。「今の時代にあった新しいやり方をしないと発展がない」と考え、それで私に「一緒に仕事をしよう」と言ってくれたんです。私自身はもともと継ぐことを考えていたわけではなかったのですが、面白そうだなと思って帰ってきて。だから父は、私がネットを始めることを楽しみにしてくれていましたし、売り上げが順調に伸び、雇用が増えてからは「ネットがすごいんや」って自慢するようになりました笑。

かわいらしい絵柄が特徴のハレクタニ。SNSでの発信がきっかけで、韓国の業者と代理店契約を交わした。

秋元:
実際に消費者の手元に商品が届くまで、商品開発やパッケージデザイン、ネットでの販売体制、カタログの有無など様々な工程があると思うのですが、その中でも一番ポイントとなるのはどの部分なのでしょうか。
北野:
ネットです。情報発信と言い換えても良いかもしれません。ここ最近はいわゆる営業をほとんどしていなくて、ひたすら情報を発信して、あとは問い合わせが来るのを待っています。ただ、お客さんにとって手間だと感じさせてしまうと発注の確率が減ってしまうので、電子版のカタログを用意したり、簡単に発注ができるフォーマットを整えたり、在庫が一目で確認できるようにしたりするなど、商品を注文するハードルを下げるための情報を届けることに力を入れています。
秋元:
なるほど、やっぱり工夫があるなあ。
北野:
それから当社では100人以上の作家の商品を取り扱っているのですが、作家ごとに商品カタログを作って、問い合わせがあればすぐに情報を提供できるようにしています。
秋元:
ネットを中心に情報発信することで、地域的な枠が外れていったということもあるでしょうし、それぞれの顧客に合わせてブランディングしたり、それに合わせて流通経路を丁寧に整備したりしたということですね。流通が活性化していくことで商品開発に影響することもあると思うのですが、北野さんから作家さんに「こういったものを作ってください」とお願いすることもあるのでしょうか?
北野:
そうですね。問屋は市場の最前線にいて動向を掴める立場にいるので、作家には市場で受け入れられやすい商品を提案したり、コーディネートしたりするのが私たちの使命の一つだと考えています。弊社が考える問屋の役割が3つありまして、一つ目は販売に関わる全ての業務を代行して、作家には作品づくりに注力していただき、新規顧客の獲得から既存顧客のフォロー・リピートまでつなげるということ。二つ目が、市場の情報を伝えて一緒に商品開発をしていく、商品の企画・開発とアドバイス。そして三つ目が作家の商品に付加価値をつけていくブランディングです。その3つの役割を問屋としてきちんと果たすことができれば、職人や作家にとって利用価値の高い問屋だと思っているので、うちはこれをやる会社ですよというのを伝えていければと思っています。

社内には撮影スタジオを設けるほか、コピーライターが在籍するなど、商品の情報をしっかりと伝えるための体制を整えている。

秋元:
私は、北野さんが今まさに一生懸命取り組んでいらっしゃる流通とブランディングの改革こそ、工芸の課題だと思っています。それぞれの会社が個別にやっていることをまとめたり、全体を通して規模拡大したりすることが必要のように感じています。
北野:
九谷の産地って、やっぱり売り手が弱いんですよね。作家には素晴らしい作品を作る人がたくさんいるんですけど、どうしても発信力が弱い。産地にいる人たちが情報発信したり、売り手を増やしたりしていかないといけません。一方で、コロナ禍で観光需要は減ったのですが、本来九谷焼が本当に一番売れる市場は観光地だったのかという疑問があります。世界的にネット販売が従来以上に拡大していくなかで、九谷焼は良い意味で転機を迎えているのかも知れません。
秋元:
面白いですね。いくら観光地としての魅力を高めても、それによって売り上げが上がっているかというと、実際はそこまででもないということも十分あり得ますよね。北野さんがおっしゃる通り、いかに外で売っていくのかという部分に力を注いだ方が良いのではと思います。それが後々「九谷焼を作っているところをぜひ見てみたい」と人々が訪ねてくれることにつながってゆくと。
北野:
九谷焼の産業を大きくして、さらには生産規模を高めて世界中に発信していくためには、やはり問屋が頑張らなくちゃいけませんね。

この回のまとめ

九谷焼を盛り立てるための施策について考えたときに、以前から「ブランディング」と「流通」がポイントだと思っており、流通の現状がどのように変化しているのか、それを担う2つの会社にインタビューを行なった。創業100年を越えた老舗問屋「伊野正峰」に、流通の仕組みがどのように時代とともに変化してきたかを伺った。また独自の商品開発とネット時代に対応した販売ルートづくりで知られる「北野陶寿堂」には、消費者と生産者の新しい関係を築く上でどのような工夫が必要か、流通の新しい方法としてインターネットが有効かどうかをお聞きした。私個人としてはブランディングと流通のところではぼんやりと霧がかかっているが、今回のインビューで薄日が差し始めたような感触を持った。