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#05 “絵描き”として独自の表現を追求し続ける KUTANism全体監修・秋元雄史が自ら現場に足を運び、ナビゲーターと対談をするなかで、九谷焼を再発見していく連載シリーズ「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。第4話から第6話は「技法の継承と個性」をテーマに、九谷焼を代表する技法と技の引き継がれ方に迫ります。今回伺ったのは小松市にある「竹隆窯」の北村隆さん、和義さん親子です。

お邪魔したのは、念仏道場を移築した独特の世界観が漂う工房。九谷焼の特徴ともいえる文様の過剰さを前面に押し出した作品を展開する北村隆さんと、隆さんから作風を受け継ぎつつ、新たな取り組みで自身の表現を広げる和義さん。表現方法は違えど同じように熱い思いを持ったお二人に、九谷焼の魅力や可能性をお聞きしました。

企業とのコラボ作品で九谷焼の魅力を発信

秋元:
和義さんがこの道に進んだきっかけはなんだったのでしょうか?
隆:
わし、息子に一回もこの仕事を継いでほしいとか言ったことないねん。教えたこともないし。「門前の小僧、習わぬ経を読む」みたいなもんや。
和義:
うーん、なんでだろう。やっぱり父が楽しそうにこの仕事をしていたからだと思いますね。父が言う通り、僕が小さい頃は貧乏でしたよ笑。お金がないから自転車も買ってもらえなくって。でも努力しているうちに、うちもだんだん大きくなってきたし、やっぱりこの仕事で育ててもらいましたから、気づいたときにはこの道を志していました。
秋元:
どのような経歴を歩まれたのですか?
和義:
地元の普通高校に通っていたのですが、絵を描くのが好きだったので卒業後は美大に入りたいと思って学生時代はずっとデッサンを習っていました。美大には落ちて別の美術学校に入学して、卒業後に九谷焼技術研修所に入り、そこで初めて九谷焼というものを勉強しました。入学してまもない頃、山岸大成さんのお父さんが講師を務める色絵の授業があったのですが、その授業で呉須(下絵)描きから上絵付けまでを学んで初めて自分が手掛けた作品を焼き上げたときに「僕も九谷焼って作れるんだな」って、すごく感動したんです。かつ面白くって。そこからはもう、のめり込んで勉強しましたね。
秋元:
基本的には展覧会を発表の場として活動をしているのでしょうか。
和義:
うちの窯に入ったばかりの頃は展覧会にも出品していたのですが、最近では出していないですね。23歳のとき、僕は今年で47歳になるので24年前になりますね。作家になって初めのうちは、どうやったら世の中の人に自分の作品を知ってもらって生計を立てられるか、というのが全く分からなかった。なので、ひとまず何でも挑戦してみようと思って展覧会に出品していました。その後、展覧会への出品を15年ほど続けて、だんだん自分の作りたい作品と展覧会に出す作品がリンクしなくなってきたときに出品をやめようかなと。個展と展覧会のどちらに力を入れようかなと考えたときに、僕は個展に力を入れていきたいと思ったんです。
秋元:
では現在の発表の場は個展が中心になるのですか?
和義:
そうですね。今年も7件の個展を予定しています。すでに来年の予定も入ってきています。ありがたいことに日本全国、ずっと個展回りをしている感じですね。
秋元:
すごい数だなあ。やっぱり百貨店での個展が多いですか?
和義:
百貨店が多いですね。画商さんともお付き合いがあるので、手伝ってもらうことも少なくありません。
隆:
最近では展覧会で賞を取っただけでは、なかなかお客さんも買ってくれんわ。肩書きだけでは物が売れん時代やもん。やっぱり作家の個性とか魅力とか、その作品の価値を感じてもらえるようなものを作らないと難しい時代にはなっとるなあ。
秋元:
竹隆窯は何人体制で営んでいるのでしょうか。
和義:
僕と父のほかに職人さんが5人いて、完全分業制で回しています。設備としては窯が5台ありますね。
秋元:
職人さんがいらっしゃるということは、作家として手掛ける作品以外に窯として制作している商品ラインナップもあるのですか?
和義:
そうですね。個展に向けた作品のほかに、飲食店から依頼を受けた食器や、少なからずギフトや記念品、引き出物の注文も入りますので、そういったことにも対応しています。
和義:
僕は企業から依頼をいただいて色々なコラボ作品を作ったりもしています。これは「モンスターストライク(モンスト)」というゲームのキャラクターをモチーフにした作品です。
秋元:
すごく今っぽいし面白いですね。九谷焼ってそれ自体が芸術ではあるんだけど、一方で、その時代の流行を捕まえて作風に反映しているところもあるじゃないですか。和義さんのコラボ作品も一種の「九谷的」な作品のように感じます。
和義:
九谷焼って分かりやすいんですよね。特別な知識は必要なくて、絵が綺麗とか技が細かいとか、カジュアルに楽しんでいただけるのが一つの魅力だと思っています。
秋元:
良い意味での軽さというか現代性のようなところが、九谷焼の面白いところなのかもしれませんね。

ガンダムカフェオープン記念企画として「機動戦士ガンダム」とコラボレーションした作品、7号皿「ガンダム×シャア専用ザク」。

和義:
初めてのコラボ作品は「チョロQ」で、東京おもちゃショーに展示していただいたんですけど、そのときに若い子たちが携帯で写真を撮っていく姿を見て衝撃を受けたんです。九谷焼を並べて楽しそうに写真を撮る姿なんて見たことなかったから、このような形で九谷焼をPRしたら、これまで興味がなかった人にも振り向いてもらえるのかなって。それから企業から依頼をいただけば、断らずに全力で取り組むようになりました。
隆:
俺と息子、同じ九谷で同じ色も使ってるんやけど、こんだけ感覚が違うねんて笑。時代っちゃ時代だな。これでご飯食べていかなきゃいけないから簡単そうで厳しい。でも楽しいわな。
和義:
どの業界でも同じかとは思いますが、もちろん苦労もありますけど、作り手ってそれが大好きだからやっていけるし、やっぱり好きなもので生きていけるっていうのは純粋に楽しいですよね。
隆:
九谷の作家って全部個性が違って面白いわ。
秋元:
そうですね。作家によっていろんな個性があるっていうのは面白いと思います。九谷焼って割と自由じゃないですか。何をやってもいいっていう。上から何かを押し付けるようなことも、型にはめようとすることもないですし。やっぱり、それが九谷焼の面白さを作っているんだと思いますね。どんな表現をしても「こうしなきゃ九谷焼じゃない」とか言わないじゃないですか。そこが今の時代に合っているように感じます。
隆:
だから全国各地で九谷の作家が活躍しとる。いいことやな。
秋元:
すごくいいことですよね。一昔前だったら「節操がない」みたいなことを言われたかもしれませんが、多様性や個性を尊重する現代においては、とても良い意味で作用している気がします。
隆:
九谷焼の産地は県外出身でも快く迎え入れてくれるし、九谷焼技術研修所にしたって、卒業後に県外へ出ても何も言わんがね。その体質がいいのかも知れんな。
秋元:
研修所も含めて、九谷が持つ自由な雰囲気は良く出ていますよね。加えて最近では、若手作家が活躍してどんどん名前が広まっているじゃないですか。そうすると、これから九谷焼を志す若い人たちにとって「自分も努力をすれば人気作家になれるかもしれない」という希望になるので、ますます若い人材が入ってくることにつながると思います。
隆:
若い人が増えれば文化も広がるしな。わしは、九谷はいいとこやなあって思う。今の時代に九谷をやってる人は自由に表現しているところが面白いと思っとるよ。
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