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#05 “絵描き”として独自の表現を追求し続ける KUTANism全体監修・秋元雄史が自ら現場に足を運び、ナビゲーターと対談をするなかで、九谷焼を再発見していく連載シリーズ「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。第4話から第6話は「技法の継承と個性」をテーマに、九谷焼を代表する技法と技の引き継がれ方に迫ります。今回伺ったのは小松市にある「竹隆窯」の北村隆さん、和義さん親子です。

お邪魔したのは、念仏道場を移築した独特の世界観が漂う工房。九谷焼の特徴ともいえる文様の過剰さを前面に押し出した作品を展開する北村隆さんと、隆さんから作風を受け継ぎつつ、新たな取り組みで自身の表現を広げる和義さん。表現方法は違えど同じように熱い思いを持ったお二人に、九谷焼の魅力や可能性をお聞きしました。

工芸家として、大好きな絵で勝負する

富山県利賀村にあった念仏道場を、2年の歳月をかけて移築した建物を工房としている。総檜造りの仏間をはじめ、隆さんと親交のあった東大寺の名僧・清水公昭氏による襖絵は圧巻。

1650年頃に小松城内に建てられた茶室の部材を譲り受け再建したもの。

和義:
建物内は迷路みたいになっているんですが笑、僕のアトリエはここになります。
秋元:
素地から全てご自身で作っているのですか?
和義:
基本的には、素地は素地屋さんにお願いしています。昆虫とか特殊な立体は自分で作っていますね。僕は昔で言う絵描きみたいなものです。
秋元:
なるほど。絵に専念していらっしゃるのですね。

瀧下和之×北村和義コラボレーション作品「色絵金彩 鬼に金棒。」。

和義:
これは画商さんが画家の瀧下和之さんを紹介して下さって生まれた作品です。かなりヒットして100体ほどが売れました。
秋元:
すごい人気だなあ。

和義さんの作品は、はじめに下地となる黒色を塗り焼成、その上に色を重ねていく「黒彩(こくさい)技法」というオリジナルの技法が特徴。重厚感があり奥深さを感じる表現を生み出している。

秋元:
作品の個性を作ること自体に、苦労したことはないのですか?
和義:
ありますね。正直、僕から見ても父親ってすごい人なんですよ笑。一代でここまで窯を大きくしたことも立派ですし、あとは圧倒的な人間力があるというか。僕がどう頑張っても叶わないところがたくさんあると思っています。そんななかで、別に意識はしていないんですけど、やっぱり父親と同じことをしていては僕の世界は到底作れないだろうなと、どこかで思っていたところがあって。あえて違うことしようとしたわけではないですけど、気がついたらこんな感じになっていました。
秋元:
私はお二人の話をお聞きしながら、良い関係を築いていらっしゃる印象を受けました。同じ仕事を親子ですることや代を引き継ぐことの難しさってあるじゃないですか。世代交代が上手くいかない親子もあるなかで、隆さんと和義さんは互いの仕事を認め合っていますよね。
和義:
そうですね。否定することもないし、そもそも僕たちの仕事に正解なんてないですから。
秋元:
でも、ともすると「九谷とは」みたいな話になりすぎちゃうこともあるじゃないですか。
和義:
工芸っていわゆる生活の美だと思うので、僕の作品が「九谷焼だから」というよりも、「部屋にちょっと飾ってみたい」とか「玄関に置いてみようかな」という感じで買ってくださる方のほうが多いと思うんです。なので、もちろん作っているものは九谷焼ですが、個展をするにしても昔の写しをしているだけではだめなので、いかに自分らしさを出すかということは常に意識しています。自分の作品として何かストーリーを伝えられるような絵が描きたいなと思って日々制作をしていますね。
秋元:
九谷焼というものに必要以上に囚われすぎないように、ということですね。最近の作家さんたちは、より個性的になってきているというか自由な感じになってきていますよね。私はすごく良いことだと思っています。
和義:
そうですね。自由で前衛的な九谷を発表する場が増えてきていたり、そうした作品を買ってくれる方も増えてきている実感があります。九谷のこれからを担う若い人たちが「自分も作家としてやっていけるんじゃないか」って思える。それって産地の発展にはすごく大事なことですよね。
秋元:
技術的な話を伺いたいのですが、絵付けはどのような手順で進めているのでしょうか?
和義:
まずはベースとなる絵のシルエットを和紙に描いて、原寸大の型紙を作ります。これが九谷の伝統技法なんですけど、その型紙を素地にのせて擦ると絵が薄く移るんです。この上からなぞって輪郭を描いていきます。ご覧のとおり型紙で移せるのはあくまでシルエットだけなので、細かな模様はその時々の思いつきで描いています。
秋元:
はじめに輪郭だけを描いて細かな模様は作りながら考えるという方法は、昔からあったのでしょうか?すごく即興性が高いですよね。
和義:
現在でもそうだと思いますが、九谷焼技術研修所では、まず始めに小紋の描き方、描き順や補助線の引き方を教わるんです。その知識があるから七宝模様や青海波なども応用しながら描くことができる。九谷焼の勉強した人たちにとって小紋の知識があるというのはすごく大きくて、伝統的な模様を使わない人なんてほとんどいませんから、描き方から教わるというのは、実はすごく重要なことかも知れませんね。

和義さんの作品、線描色絵金彩「前を見るライオン」。動物や植物をモチーフとした作品を多く手掛ける。

秋元:
面白いですね。大事なことだから現在は研修所で伝えているのでしょうけど、昔は職人同士で教え合ったり師匠から弟子へ伝えたりしながら継承してきたのでしょうね。

和義さんのアトリエにある本棚の一部。動植物の図鑑や名工の作品集など、様々な書籍が並ぶ。

秋元:
造形的な作品も色々と手がけていらっしゃいますよね。
和義:
そうですね。でも僕は絵を描きたいんで、本当は平らな方が描きやすいんですよ。花瓶とかも平らな面を多くしているんです笑。最近の作品は、絵が描きやすいような形で作ることがほとんどですね。
秋元:
たしかに立体的なものは描きづらいですよね。
和義:
僕はとにかく絵を見ていただきたいので、自分自身としては世間一般にいう陶芸家ではなく、工芸家だと思っています。絵を描いて、九谷焼の色絵と技法を使って工芸として仕上げていますので。九谷にはろくろを引くのが上手な人もいれば、造形にものすごく力を入れている人もいらっしゃいます。そんな中で、僕は絵で勝負していきたいと思っているんです。
秋元:
九谷焼の絵付けは、一番の見せどころですもんね。
和義:
やっぱり壺や花瓶と比べて、皿に絵を描くときは一層気合が入るし、頑張って描いちゃいますよね。職人も作家もそれぞれ力を入れるところは違うと思いますが、僕は絵を続けていきたいし、伝統模様と九谷焼の色絵を使ったこの世界観というものを、もっと多くの人に伝えていきたいって思いながら、日々絵と向き合っています。

隆さんと和義さんが手がけた作品が所狭しと並んでいる。

この回のまとめ

お二人から感じたことは、九谷焼も時代と共に変化しているということだ。当たり前といえば当たり前だが、同じ絵付けの仕事でも、昭和から平成を生き抜いた隆さんと、平成から令和で仕事をする和義さんとでは、だいぶ仕事の仕方が違っているのではないか。一言で言えば、テーマやデザインの違いである。いつの時代でも作品の方向を決める強い要因に、購入者の好みがある。いくら作家が信じた世界を展開しても、それを支持してくれる人がいなければ作品は成り立たない。コレクターを納得させるだけの説得力を作品が持たねばダメだし、期待を裏切らない力量が必要だ。創造性は造り手が作るものと思いがちだが、案外購買者によっても決まる。誰に向けて作品を作っているかを意識することは重要である。時代感といえばそれまでだが、購買者の違いからテーマの違いが生まれているように思えた。