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絵付けを生かすかたち 受け継がれる九谷のろくろと型打ち
KUTANism全体監修・秋元雄史が自ら現場に足を運び、ナビゲーターと対談をするなかで、九谷焼を再発見していく連載シリーズ「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。2021年度は“技法”と“伝承”をキーワードとして、九谷の魅力を、系譜を紐解きながら探っていきます。
華やかな絵付けに注目が集まることの多い九谷焼ですが、絵が活きるのは、それを支える素地の美しい造形があってこそ。第三話は九谷焼の“技法”に注目し、成形の基本である「ろくろ形成」のスペシャリストとして三代続く「アズマ製陶所」と、全国的にも数少なくなっている「型打ち形成」の担い手・宮腰徳二さんを訪ねます。九谷焼の花形である絵付けにバトンを渡す重要な役割を果たしている二軒への取材を通じて、職人技の奥深さを知ります。
型打ち形成の名門で修行をし、独立
職人として技術を守り、魅力を伝えることに使命
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案内してくれた人
宮腰 徳二さん
1973年、小松市生まれ。1991年から21年間、加賀「妙泉陶房」で山本篤氏に就き、薄手生地の型打ち形成を学ぶ。2006年伝統工芸士認定「九谷焼成形部門」。2012年独立。日常に花を添えられるような器づくりを目指し、妻の綾さんと二人で工房を営む。
- 秋元:
- まずは型打ち形成について基本的なところから教えていただけますでしょうか。
- 宮腰:
- 九谷の粘土は曲げたり変形したりするのに適しているんですね。型打ち形成というのは技法自体が難しいということもありますが、粘土の質によってできたりできなかったりするものですから、日本全国で作れるわけではないんです。近年ではほとんどが鋳込み形成になっていますね。今、型打ちをしているのは個人作家くらいなんじゃないかな。
- 秋元:
- ろくろで引いてから型に当て込む際に、まず粘土が重要ということですね。ちなみに粘土の製造方法で言えば、スタンパーで作った粘土であれば、どの産地(陶石)であっても作れるということでしょうか?
- 宮腰:
- 粘土の粘り気にも関係してくるので、やはり九谷の陶石であることも重要です。九谷の土にも多少のぶれ幅があるので、そこは他産地のものを入れて調整していますが、メインは九谷の土になります。粘土の配合は付き合いのある二股製土所さんにお願いしています。
- 宮腰:
- 型打ち形成の良いところは、鋳込みと違ってものすごく軽く作れるところなんです。鋳込み形成のように粘土をぎゅっと圧縮したりしないので、器を持ってみていただければ分かると思いますが、びっくりするほど薄いでしょ。
- 秋元:
- ほんとだ!
- 宮腰:
- ここが大きな違いなんです。ただ、型打ち形成をいまだに続けている人は本当に少ないですよ。おそらくですが全国で10人も居ないのではないでしょうか。そのなかでも九谷はまだ残っている方です。やっぱり一手間多いということもあり、ろくろ形成や鋳込み形成よりも価格が高くなってしまうんですよね。他と比べて軽いとか色々なこだわりはあるのですが、それを工芸の魅力として知ってもらえることが、なかなか難しいと思います。
- 秋元:
- 手仕事の良さを細部まで意識して、ちゃんと見てもらえるかということですよね。日頃は一日に何個くらい作っていらっしゃるのでしょうか?
- 宮腰:
- 形にも寄りますが、一日に50個も作ると疲れちゃいますよね。ある程度、数を多く作ることができれば少しでも値段を安くできるので、そこは意識しています。
- 秋元:
- 注文の受け方はどのようにしていらっしゃるのでしょうか。完全なオーダーメイドよりも、ある程度、宮腰さんの方で形を用意しているのですか?
- 宮腰:
- そうですね。型から作ると3ヶ月くらいかかってしまうので、基本的には、ある中から選んでいただいています。昔は注文の単位が100個だったので、オーダメイドの注文もありましたよ。問屋さんから「こんな形はできる?」って新しいデザインを頼まれることもありましたね。
- 宮腰:
- こうやってろくろを引いて、型に沿わせて形作ります。変形が可能なので四角にしたり五角や八角にしたり、そういうこともできるのが型打ち形成です。型に当てて上からさらしを巻いて細かく線を付けていきます。形ができたら自然乾燥させて、翌日に高台を削り出して、その後、最後に仕上げをすると。ですから、一日にろくろで50個作ったとしても、乾燥して削って、どうしても時間がかかっちゃいますよね。
- 宮腰:
- 型打ち形成って「型があるから簡単なんじゃないの?」と言われる方も結構いらっしゃるのですが、そうではなくて、型にあった形を、いかにろくろでしっかり作れるかというのがとても難しいんですね。大きすぎても小さすぎてもダメで。厚さを均等につくれる技術というのが、すごく重要になってくるんですよね。
- 秋元:
- ろくろで引いたものが型に合わないといけないんだもんなあ。宮腰さんはこの道に入って何年になられるのでしょうか?この技法を自分なりに納得できるようになるには、どれくらい時間がかかりましたか?
- 宮腰:
- 丸30年になります。習得するまでに10年はかかりましたね。今でも失敗することはあります。数ミリ厚すぎたなって作り直すこともありますよ。やっぱり、いつまで経っても難しいですよね。「ちょうどいいバランス」が分かるようになったのは独立してからでしょうか。僕の場合は職人として素地を九谷の作家さんに提供するし、作家として、白磁や青磁とかで販売することもあるので。やっぱり自分が納得できないとね。
- 秋元:
- 自分の作品にも力を入れていますね?
- 宮腰:
- やはり業界が厳しくなってから、自分で動かなくてはならなくなったのが大きいですね。作家さんが自らデパートの売り場に立つとか。そういう人が増えてきました。
- 秋元:
- 素焼きの型も、ご自身で作っていらっしゃるんですよね?
- 宮腰:
- はい。仕上がりの大きさを計算して、内側の形をイメージしながら作っています。よく「あと5mm大きくしてほしい」とか言われることあるんですけど、そう簡単ではないんです笑。微調整をするには、もう一つ新しい型を作らなきゃいけなくなる。それも石膏で作っているわけではないから、そんなに簡単じゃないんです。
- 秋元:
- 初めて型のことを知ったときに石膏かと思ったのですが、素焼きで作っているというのが面白いですね。
- 宮腰:
- 石膏型も悪くはないのですが、使い続けるうちに、だんだんすり減ってしまうんですね。土の場合は、僕が聞いた話なんですけど300〜350年前からそのまま残っているものもあるそうで。割れない限り、ずっと残っているんです。廃業された工房には、お宝のように眠っているけど、それを使う人がいないというのが勿体ないですね。僕の師匠の山本篤さんは、役目を終えた型の命を吹き返すことができないかという取り組みをしておられます。なかなか継承って難しいですよね。だから、うちみたいに作る人間がいかに根性出してがんばれるか、というところですよね。
- 秋元:
- この技法の価値が分かる人を増やすことが大切ということですね。時代が変わって工業化が進み、あらゆるものが数値化できるようになってはいますが、焼き物の場合は山から持ってきた石から始まるわけですから、自然が持つ揺れ幅みたいなのがあって面白いと感じています。現代は様々なものが電子化や数値化されていたり機械化されたりしているので、多くの人が正確無比なものが良いと考えがちですけど、基本的には工芸作家さんがもっている技術って、経験値の幅のなかで、どういう風に表現するかっていうことじゃないですか。一番重要なところは決して数値化できないんですよね。
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