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#03 絵付けを生かすかたち 受け継がれる九谷のろくろと型打ち KUTANism全体監修・秋元雄史が自ら現場に足を運び、ナビゲーターと対談をするなかで、九谷焼を再発見していく連載シリーズ「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。2021年度は“技法”と“伝承”をキーワードとして、九谷の魅力を、系譜を紐解きながら探っていきます。

華やかな絵付けに注目が集まることの多い九谷焼ですが、絵が活きるのは、それを支える素地の美しい造形があってこそ。第三話は九谷焼の“技法”に注目し、成形の基本である「ろくろ形成」のスペシャリストとして三代続く「アズマ製陶所」と、全国的にも数少なくなっている「型打ち形成」の担い手・宮腰徳二さんを訪ねます。九谷焼の花形である絵付けにバトンを渡す重要な役割を果たしている二軒への取材を通じて、職人技の奥深さを知ります。

絵付け作家にバトンをつなぎ、作品の可能性を広げる。

秋元:
宮腰さんが型打ち形成の道に進んだきっかけは何だったのでしょうか?
宮腰:
昔は焼き物がどうやってできるかも知らなかったんです笑。師匠のもとでゼロから教わりました。僕は中卒で、卒業後はお好み焼き屋で働いていたんです笑。焼き物の進んだきっかけは手に職をつけたかったから。僕の親が妙泉陶房の山本篤さんとご縁があって、18歳のときに弟子入りさせてもらいました。この仕事は本当に難しいんですよね。頭ではなく、身体で覚える仕事なので。今でも難しいですが、その難しさが面白かったんでしょうね。難しくて、完璧を求めたくて続けているみたいな。なんだろう、常に上を目指すじゃないですけど、やっぱりこう「もっと良いものを」というのは常に思っているので続けられるのだと思います。
秋元:
そういう風に思えるということは、宮腰さんに向いていたのでしょうね。向上心を持って上を目指すことができるのは、仕事に対する充足や達成感のようなものがあったんですね。
宮腰:
九谷の場合は、食器は食器の職人、花瓶は花瓶の職人、小さい器専門、大きい器専門、というくらいに細かく分業していて、何でもできるという人はなかなかいないんですね。でも僕は、小さい盃から大きい花瓶まで、いろんなものを作れるようになりました。
秋元:
ご自身としては自分のことを工芸作家と考えるのですか?それとも職人でしょうか。
宮腰:
職人です。私の師匠・山本篤さんも職人。作ることを怠けないというか、そこは絶対なんですね。だから評価されるんだろうと思います。

すべてオリジナルの型。現在150ほどがあるという。

秋元:
なるほど。職人として生きていく中で、最後は自分の窯を構えたいということで独立されたのでしょうか?
宮腰:
僕の場合は、もともと独立心というのはなかったんですけど、40歳になったときに、そろそろ自分でやってみようと思って独立したんです。
秋元:
宮腰さん自身のお仕事についても教えて下さい。ご自身の作品として世の中に出すことも積極的にされていますね。
宮腰:
僕たちにできることは、型打ち形成という技法をいかに多くの人に知ってもらうかということに尽きると思います。まずは、この技法の付加価値を知っていただきたい。僕自身、まだまだ勉強段階ではあります。グループ展に参加したりテント市などに出店したり、イベントに合わせて新しい作品を作ったり、色々と挑戦してはいますが。

宮腰さんの作業スペース。日々、黙々と粘土と向き合う。

秋元:
宮腰さんが仕事をする上で大切にしていらっしゃるこだわりは何でしょうか。
宮腰:
自分で型を作り、ろくろを引いて制作しているので、全ての作品がオリジナルというところですね。ゼロから考え完成まで持っていくんです。アイディアは花や草、水など、自然から得るようにしています。造形のラインとか、全体のフォルムを大切にしているんです。僕は絵が分からないので、作家さんに素地を提供して、その先はお任せしていますが、絵付け作家さんたちは丁寧に描いてくれるひとが多いので、気持ちよくやりとりができますね。やっぱり素地を提供するからには大切に扱ってほしいという気持ちがあります。
秋元:
長く付き合いが続いている業者や作家はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?
宮腰:
個人の方ばかりですが、全国で30人くらいかな。地元の方もいるし京都や神奈川など、各地においでになります。絵付け作家さんも、職人のことを理解して絵を付けてくれているように感じます。一つひとつを、すごく大事にしてくれるんです。「1+1」を3にも4にもしてくれる、そんな人とお仕事していければいいなあと思っています。僕らの仕事って、分かる人にしか分かってもらえないんですよね。

この回のまとめ

分業化が進んだ九谷の制作現場で、今回は素地をろくろで成形する「アズマ製陶所」の東剛太郎さんと、型打ち技法で成形する宮腰徳二さんに話をお聞きした。九谷焼といえば絵付けが花形だが、絵付けを上手く見せるために、まずはその下地である素地の焼物が良いものでなければならない。一口に「良い」といってもその姿は様々であり、制作方法も異なる。芸術性を追求すると同時に生産性も考慮に入れなければ仕事にならないが、その塩梅が難しい。二人の話をお聞きしつつ、高度な職人技術の何たるかを学び、同時に九谷焼の分業についても改めて考える機会になった。