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KUTANism 2021|九谷焼の芸術祭クタニズム2021
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#06 「毛筆細字技法」で日本の詩歌の世界を展開する KUTANism全体監修・秋元雄史が自ら現場に足を運び、ナビゲーターと対談をするなかで九谷焼を再発見していく連載シリーズ「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。第4話から第6話は「技法の継承と個性」をテーマに、九谷焼を代表する技法と技の引き継がれ方に迫ります。今回伺ったのは、毛筆細字の技法を用いて独自の美を表現する三代・田村敬星さんです。

漢詩や和歌といった古典文学を極細の毛筆で磁器に描き込む技術「毛筆細字技法」。目を見張るほど精緻で美しく描かれた細字は、焼き物の世界ではほとんど見ない大変珍しい技術です。明治期から1世紀以上、四代にわたって一子相伝で受け継がれ、現在は三代・田村敬星さんと娘であり四代の星都さんによって守られています。毛筆細字技法について、またこの技術がどのようにして生まれ、いかに受け継がれてきたのかをお聞きしました。

一人でゴールを目指すのではなく、次の代へバトンをつなぐ

田村敬星作「百人一首八角香合」

秋元:
色々お話を伺っていますと、改めて技法を習得するまでにかなりの訓練が必要な世界だと思うのですが、やはり修業は厳しかったのでしょうか。
田村:
祖父から仕事を継いでくれと言われたとき、不思議と自分ができないとは思わなかったんですね。祖父ができるのなら自分にもできるだろうと笑。そのように思えたということは、やはり自分に与えられた仕事だったのかなと今になっては思います。今でも苦しいと思うことはありますが、それでも辞めたいと思ったことはありませんでした。自分にしかできない仕事をやりたいという一心で、どんなに苦しい時期も筆を置くようなことは決してありませんでしたね。
秋元:
この世界に入られるまでは何をしていらしたのですか?
田村:
高校卒業後、大学に進学する予定が受験に失敗しまして。浪人して予備校に通っていたときに、祖父から「普通の勤め人になるより、じいちゃんの後を継がないか?」と言われたんです。進路は教育系を考えていたのですが、私は子どもの頃からものづくりに興味があって、心の中でそういう仕事をしてみたいという気持ちもありました。そこで祖父のもとへ行く決心をするのですが、一ヶ月間、適性試験のようなものがあって笑。祖父が描いた書のお手本を毎日50枚ほど写し描きしていくんです。結果、祖父が「なんとかできそうだ」と判断して、翌年から本格的に修業に入りました。そしたら修行が大変厳しくて笑。
秋元:
やっぱり厳しかったんですね笑。
田村:
考えてみましたら、当時、祖父は72歳だったので「早く一人前になってほしい」と必死だったんですね。私も早く一人前になって自分のものを作りたいと思っていました。

毛筆細字技法は、視力も欠かせない道具の一つ。

秋元:
おじいさんの代は、どういったお店に作品を納めていたのでしょうか?
田村:
今は無くなってしまいましたが加賀市山中温泉にあった九谷焼を扱う大きなお店や、金沢では諸江屋さん、兼六園そばの片岡光山堂さんなどで取り扱っていただいていました。
秋元:
なるほど、昔の取扱店はほとんどが地元だったのですね。
田村:
そうですね。産地問屋は大手の問屋が多かったです。祖父の頃は大変人気があって、連日のように産地問屋のご主人や若い方が2、3人やって来て、朝から晩まで作品が出来上がるのを待ってるということもありました笑。
秋元:
毛筆細字技法は他の焼き物の産地にもある技法なのでしょうか。
田村:
ないと思います。焼き物で、ここまで細かい文字を描いているものは見たことがありませんね。年2、3回、全国各地で個展を行っていますが、ほとんどの方は九谷焼の細字技法を知らないですし、初代や二代の作品をお持ちの方も北陸3県以外ではほとんどいらっしゃらないんです。
秋元:
娘の星都さんはどのようなきっかけで後を継がれることになったのですか?
田村:
ある日突然、娘から「細字をやってみたい」と言われまして。驚きましたし嬉しかったですが、大変厳しい世界なので正直少し悩みましたね。でも、ここで娘の申し出を断ったらこの技術は途絶えてしまうと考え、思い切って教えてみることにしたんです。我が家には代々「マラソンランナーではなく駅伝ランナーであれ」という教えがありまして。一人でゴールを目指すのではなく、それぞれが自分の代でできる限り良い作品を作って、それを次の代につないでいこうという考えのもと、取り組むことにしました。
秋元:
星都さんへの指導はどのようになさったのでしょうか。
田村:
最初の3年間は細字を教えませんでした。というのは、私は細字を先に習い後から焼き物を学んだので、もっと焼き物の勉強をすればよかったという反省があるからです。私はというと、娘が一人前になってくれたおかげで自分の仕事に専念することができるようになりました。作家として別々の仕事をしていますが、二人でできるようになってからようやく足が地についたように、自分の作りたいものに取り組めるようになりましたね。

この回のまとめ

何気なく見ているものの中にも様々な苦労があり、努力があるということを今更ながら知る取材となった。しかしそれは田村敬星さんの仕事に苦労の跡が見えるということではなく、あまりにもすんなりと破綻なく細字が描かれている、その当たり前に驚いた。作品を観ていると、知らずしらずのうちにこちらの鑑賞レベルが上がっているというのは、いい仕事を見ることの効用ともいえるものだが、田村さんの仕事はそういう仕事である。九谷の特性の一つである「技術力」の底力を感じることができた。娘である星都さんが後を継ぎ、細字の魅力を若い層にも伝える機会が増えて、新たなファンが増えるのが楽しみである。